呼吸する素材にプラスするものとは?

21世紀 住まいづくりのトレンドを探る(第5話)  -呼吸する素材にプラスするものとは?- (1999年にホームページで紹介したダイジェスト版です。)

からだと心の健康を育む住まいの実現には、今何が必要なのか?住宅アレルギーの現状とその背景に潜む住まい方の死角について考えながら、真の住まいづくりへの手がかりを探っています。

ここまでのお話で、「呼吸する素材」がからだと心の健康に根差した住まいづくりの鍵を握っている、とお伝えしました。では、素材にだけ気遣いをすれば心の健康というものは保つことができるのでしょうか?そこのところをもう一歩踏み込んで考えてみます。
講演会場のスクリーンに、スウェーデンやドイツの子供部屋が写し出されました。その室内は、床・壁・天井にいたるまで木工をはじめとする自然素材でかたちづくられています。
加えてそこには、創造力の源となる円曲や斜めのモチーフがさり気なく使われております。まるで物語に登場する屋根裏部屋を彷彿とさせるものでした。やんちゃな少年らの弾んだ笑い声が今にもこぼれ出てきそうな、リズミカルで冒険心にあふれた感じの・・・。
「そしてこれが日本の子供部屋です」 須貝先生の声を遮るように会場が一瞬どよめきました。それもそのはず、さっき見たそれとは大違いなのですから。
日本の子供部屋は、木質とは対照的な鉄やコンクリートで内装された、まるで四角くて白い箱なのでした。大人の感性に合わせたとでもいうのでしょうか、シュールを気取ったつくりの天井には幾本ものスチールがむき出しになったままです。
「いいですかお母さん方。こんな部屋で子供をきつく叱ったりしてはいけませんよ。」
乾きや空しさが漂う空間に思い詰めた子供がいる情景など、想像すらしたくないものです。何かが引き金となってそこから悲劇が生まれないとは、誰も断言できないでしょう。そんな空間が子供の心が育つ場所であってはならないのだと、先生は伝えたかったのかもしれません。