心のきずなを深める住まい

21世紀 住まいづくりのトレンドを探る(第6話)  -心のきずなを深める住まい- (1999年にホームページで紹介したダイジェスト版です。)

須貝先生はさらに会場へ問いかけます。 「四角い山、直角に曲がる川など見たことありますか?」
その言葉に、私ははっとしました。先ほど見た日本の子供部屋の写真に違和感を覚えた訳はそういうことだったのです。あの空間には、自然から感受するありのままの美しさが欠けている。あのような環境で、感受性を起点として成長してゆく人間性や独創性を育むことができるのだろうかと。
対して、スクリーンに見る欧州の住空間は、丸みを帯びていたり、傾きが備わっていたり・・・。自然本来の姿から受けたインスピレーションが、設計のそこここに活かされています。
私は住環境に対する自身の固定概念を振り返りました。人に優しいという言葉のマジックに酔い、自然素材を取り入れさえすれば完璧なのだという妙な安心感にとらわれていやしないかと。

 私達が抱える「心の健康」という大きな課題は、別の何かにすり替えるという発想だけで達成できるものなのでしょうか。もちろん「呼吸する素材」は、今よりずっと快適で健康的な空間づくりをサポートしてくれるでしょう。でもそれだけではないことに、私達は気付かなければならないように思います。
何をプラスしてゆけばいいかを、改めて考えることが大切。それは、自然とのふれあいで発見する何か、家族友人との語らいでもたらされる何か、いえ、もっと別の何かも必要となるのではと。
講演の締めくくりに須貝先生は、「なにより家族の心のきずなを深める住まいづくりであるように」とメッセージを下さいました。それを聞いた会場全員の心はきっと何かを感じたはずです。
住まいは、ライフスタイルを包容する器(うつわ)です。しかし便利さや安全性が要求されるのと同じ次元で、そこは懐(ふところ)のごとく、子供の心に何をどう育めばよいかを気付かせてくれる場でなければならないのだと、今さらながら感じ入った講演会でした。
houseより、まずhomeありき。みなさまはどうお考えになるでしょうか?