森を守り、暮らしに生かし、木と共に生きる。ユダ木工は木製ドアづくりを通して、持続可能で豊かな社会の実現を目指します。そして、次世代の山づくりを支援する新しい取り組みを模索しています。
いろいろな「次世代の山づくり」をご紹介するシリーズとして、前回のたなべたたらの里さんに続き、今回は地元 広島県の「広島県西部地区森林再生協議会」での取り組みをご紹介します。
これからの林業を考え、支援する
「広島県西部地区森林再生協議会」は、木材の生産・流通・加工に関わる事業者によって設立された会です。再造林にかかる費用を皆で少しずつ負担する仕組みによって、次世代の山づくりを支援されています。
ユダ木工もこの仕組みに参加できないかと考え、森林再生協議会のKさんにお話を伺いました。
山の少子高齢化

今問題になっているのは、これから日本の山には高齢樹がますます増えていく一方、若い木が減っていくということです。
日本の山の約4割は、戦後植林されたスギやヒノキの人工林です。しかしその後、輸入木材が沢山使われるようになり、地域の木を使い、植え、育てる、というサイクルが十分に行われなくなりました。結果、今の山は「少子高齢化」ともいえる状態になっているのです。

人工林も森林所有者も高齢化していくというのは、林業経営が衰退していくということ。これは深刻な社会問題です。数十年後も利用可能な森林資源を守るためには、再造林の取組を今のうちから進めていくことがとても重要なのです。

本当にそうですね。ユダ木工が木製ドアづくりを続けられるのも、先人の手で育てられてきた豊かな山があるからです。私たちも未来につながなくてはなりません。しかし、国内では再造林が進んでいる地域もあれば、進んでいない地域もあると聞きます。それはどうしてなのでしょうか。
分割されすぎた山

再造林が進まない理由として、森林所有者の負担が大きいことも問題ですが、もう一つ大きな問題があります。それは山林の所有形態があまりにも細かすぎることです。
山林の所有が細かく分かれている場合が多くあります。所有者の許可なく伐採や整備をすることはできません。土地の境界や所有者が不明なために放置されてしまっている山が、沢山あるのだそうです。

山林が「あまりにも細かすぎる」状態に分かれているのは、どうしてなのでしょうか。

理由については、あくまで私の個人的見解なのですが、かつて地域住民の共有資源として利用されていたことに由来すると思っています。炭・薪など様々な生活用品を山から得ていた時代のことです。当時、森林はまさしく地域の財産であったというふうに考えています。

そして明治時代頃に、土地の所有権を明確化する取り組みがなされました。その際に「みんなの山」だった里山が細かく分割されたのでしょう。

ともかく、日本の山は「どこからどこまでが誰の山」というのが非常に細かく決まっているという特徴があります。これらの山の再造林をするには、土地の調査からはじめる必要があります。これがとても大変なのです。
そこで、林業にかかる費用の支援だけでなく、林業の改革のためのより広い支援が、国をあげて始まっています。
林業の改革

所有者が分からない山を含め、今、放置される人工林が増えています。個人で山林を経営管理するのは大変困難です。まずは集約化して大きなまとまりにすることが急務です。その上で、現在の人工林の中から、林業に適した山林とそうでない山林を見極め、林業地を絞る。そして、林業地以外の人工林は針広混交林に移行させる。こうした計画のもと、全国各地で取り組みが進められています。

針広混交林(しんこう こんこうりん)は、スギ・ヒノキなどの針葉樹だけでなく広葉樹が共存する、より天然に近い森林のことですね。確かに、現状は急斜面で重機が近づけないような山も、スギやヒノキの林業地になっていることが珍しくなく、手入れも伐採もかなり大変そうです。とても明確なビジョンで、理にかなっているように思います。

課題はまだまだ多いです。それでも、取り組んでいかなくてはいけません。具体的な制度としては、2019年4月から施行された「森林経営管理法」に基づく「森林経営管理制度」があります。
【林野庁 森林経営管理制度パンフレット「あなたの”森林”手入れができていますか?」(PDF)】
広島県西部地区森林再生協議会の取組

再造林やそれに伴う下刈(※)にはお金がかかります。国の制度や補助金があっても、それだけでは足りません。
(※下刈:植樹後約5年間程度、苗木を守るために周囲の雑草・雑木を定期的に刈り取る必要がある)

そこで、私たちは「広島県西部地区森林再生協議会」を作りました。当会は、会員が木材を生産・取引した量に応じて負担した金額を、再造林・下刈費用として還元する仕組みを構築しています。
森林再生協議会は、木材の生産・流通・加工業者や、チップ製造・バイオマス発電業者等、木材の流通に関わる団体・事業者が、皆で林業を支え合う仕組みです。2025年現在で18の団体・事業者が加盟しています。
ユダ木工がこの仕組みに参加する方法についてご相談した結果、この度、新しい枠組みとして「木材需要会員」が創設されました。
木材需要会員と賛助会員の新設によって、より消費者に近い事業者が参加できるようになりました。これまでは木材流通の川上・川中を中心としていた取り組みが川下まで広がることで、より沢山の人が少しずつ助け合えることと思います。

こうした取り組みが他の地域でも広がれば、もっともっと沢山の人で力を合わせて、私たちの山づくりを少しずつ支えていくことができますね。
持続可能な森林資源を守る

日本の人工林のように再生可能な森林資源はとても重要です。世界では、有限の資源である原生林や天然林が、無計画な伐採によって急速に失われています。
日本は豊かな人工林に恵まれているにも関わらず、木材自給率は低く留まっています。
日本の木材自給率は、2003年に過去最低の18.8%まで落ち込んでいました。ユダ木工が「未来の山を守るために、国産材でドアを作ろう」と決心した2006年頃には、まだ約2割。その後「ウッドショック」などを経て全国的に国産材利用が進んできた現在でも、自給率は4割程度と低い状況なのです。

木材自給率は2023年で43%。今もまだ、外国から輸入される木材に大きく依存しています。日本の森林資源を有効活用し、それを持続することは、世界の森林を守ることにもつながると思います。

Kさん、ありがとうございました。私たちユダ木工も勉強を続けながら、未来の豊かな山を守るためにできることを模索していきます。
取材協力
広島県西部地区森林再生協議会